煤けた天蓋に 群青の裂罅が走る 廃駅の時刻表には 帰還という文字だけが欠けていた
玻璃の水脈を伝い 名もなき灯が沈降する 誰の祈念でもないものが 夜気の襞に滞留している
私は知っている 暁は約束ではない それはただ 無数の喪失が残した 淡い鉱脈であることを
ゆけ 翳りの王国を越えて
朽葉の星辰が崩れても 胸腔の焔は減じない
ゆけ 風化した神話を越えて
幾千の沈黙が累なろうとも この生はなお未完である
潮汐の書庫に 忘却の頁が積もる 古い鐘楼の影では 季節さえ名辞を失っていた
大理石の黎明を 黒曜の鳥が横切る 世界は完成を拒み 絶えず生成へ傾いている
ゆけ 翳りの王国を越えて
蒼鉛の月が砕けても 瞳の奥域は消えない
ゆけ 風化した神話を越えて
流寓の旅人たちよ まだ見ぬ地平を迎えよ
誰も語らぬ海図の外へ 誰も編まぬ伝説の外へ
ただ一縷の燐光を抱き
夜そのものより深い場所で 新たな黎明を発見せよ